ひじの内側を中心にして広がっているアトピー性皮膚炎がよくなったり悪くなったりを繰り返すので、子どもはいつも筒形の網包帯をしていました。状態が悪いときは浸出液が出て包帯にくっつくので、皮膚からはがすことができなくてそのままお風呂に入ることもありました。お風呂上りにするっと取れるときもあれば、くっついたところをそのままにしてハサミで回りを切って外したり、大変だったこともあったように思うのですが、当時は親子で「やったね!するっととれた」とか「切り取ったデザインがステキ!」などとはしゃぎながら日々を過ごしていました。
包帯を清潔に保つために10本くらいの筒型の網包帯を駆使して、汗をかいたり汚れたりしたときは1日に何度も取り換えていました。保湿剤をぬってそのままの状態にしているとかゆいのに、網包帯をすると不思議にかゆみがなくなるので、包帯はまるで外側の皮膚の役割をしてすっかり欠かせないものになりました。
少し困ったのは、保湿剤の種類によって洗い落ちのいいものもあれば、黒ずんで残ってしまうものもあることです。皮膚になじむものほど包帯が黒ずんでしまう感じがしました。
予想通り「これ以上は白くならないよね?」と遠慮がちに子どもが訴えかけてきました。
学校には洗ったばかりの清潔な包帯をして行ったのに「きれいなのをした方が衛生的なんだよ」と友達が教えてくれたというのです。子どもは「洗ったばっかりなんだけどなあ」とは言えなかったのだろうと思います。
合成洗剤を使い、漂白剤を使えばある程度きれいになるのですが、それを使えばてきめんに子どもの皮膚が悪くなるのでなかなか思うようにいきません。そんな経緯があり、刺激のない石けんで洗い落ちのいいものをいつも探していました。これは素晴らしいと思うものに出会って数か月が過ぎたころ「母ちゃんこの臭い何とかならない?」と、再び遠慮がちな、しかし今度はかなりきっぱりとした抗議が来てしまいました。
べとついた薬も洗いきれるようになって白くて清潔な包帯になったのに、衣類が全部米ぬかの匂いがはんなりと残るようになってしまったのでした。すすぎをいっぱいしてもいまひとつ。ここは山がちな土地で、朝は明るくても日差しがさすのは9時過ぎから、午後は3時に日がかげるので外で干せる時間が極端に短く、それ以降の時間、洗濯物は室内で乾燥させるのです。多分これが災いしたのでしょう。そのうえフルタイムの働きバチとしては室外での干しっぱなしはできない相談なのです。
我が家の軒先には網包帯がいつもひらひらしていて、ムーミン谷に棲んでいるニョロニョロがいるみたいでした。白くてべとつかず嫌な臭いがしないという当たり前のテーマが乗り越えられず、情けない気持ちになって私はニョロニョロをながめていました。