アトピー性皮膚炎の当事者の人と話していると「汗をかくとアトピー性皮膚炎が悪化するのでできるだけ汗をかかないようにしたい」と思っている人がとても多いと感じます。
「汗をかかないようにとにかく動かないようにしている。暑い季節になったら学校を休む」という方法をとっている中学生のことを前回お話ししました。
汗対策は「汗をかいたらシャワーを浴びてそのあと保湿剤を塗る」というやり方が基本的な対策だと思います。
このシンプルな方法は保育園や小学生の頃は、周りの大人が協力することで何とか工夫できますが、年齢が上がるとともに周りの人に相談したり、汗拭きや薬を塗る場所を確保するために学校と交渉したり、わずかな休み時間でやりきるための工夫をしたり、自分でやらなければならないことがたくさん出てきます。
自分の症状コントロールについて人に説明するのは厄介ですから、汗をかく時期は学校に行かないと決めた中学生男子は、大人が思う以上に嫌な経験をしたのかもしれません。
もしかしたら複雑でつらい気持ちを抱えている可能性もあります。
それでも自分の気持ちを律して学業は中くらいを維持し、涼しい季節になると学校に行くようになるのですから、この男の子はきっとかなり強い精神力の持ち主なのではないかと、お母さんの話を聞きながら想像しました。
出席日数や卒業単位のことで問題をかかえていないのであれば、中学校を卒業して高校生になっても本人が今まで通りの方法を選択したいならそれはそれで身体症状との折り合いのつけ方なのではないかと思い、お母さんにはその感想を率直に伝えてみました。
医師によっては、むしろ汗をたくさんかいて新陳代謝をよくすることで身体全体のバランスが整いアトピー性皮膚炎の改善につながると考える人もいます。
汗対策が上手にできるようになれば、汗をかいても無用に怖がる必要はなくなるし、「汗をかかないようにする」選択は正しいかどうか再検討すべきかもしれません。
でもそのことをこの男の子に今、伝えたとしても解決にはつながらないと考えてのことでした。
お母さんはその感想を聞いて「ただ普通になってほしかったんです」と言って泣きだしてしまいました。
汗対策について保健や担任の先生とどんなやりとりをしたのか、今の行動パターンになった本当の理由やきっかけはどんなことだったのか、いろんなことを少しずつでいいから息子さんから聞いてほしいと思いました。
たくさん話してもらうためには「絶対責めない、怒らない、批判しない」そのうえで、今の気持ちやこの先にやりたいと思っていることなども順を追ってゆっくり聞いていけるといいなと思いました。
「私は息子の気持ちをまったく想像していませんでした。つらかったよねって一度も声をかけていません。今日顔を合わせられたら、すごい決断だったね。大変だったよねって言ってみます」
直後に新型コロナ禍に社会全体が飲み込まれ2年半が経過してしまいました。
その後の経過は聞けずじまいですがオンライン授業は彼にとって理想的な環境かもしれません。
普通になってほしい親心を思い、普通が変化する日々に様々な気持ちが去来します。