アトピー体質の人が集まって話す機会があると、冬に限らずいつも手荒れがひどいという話題が出てきます。
私自身も台所仕事の後にせっせと保湿クリームを塗っても、パキバキと爪の脇あたりが割れてしまいます。
ゴム手袋をすると手がかゆくなってしまうので使い捨てのビニール手袋をしていますが、それでも水がしみてしまえば指割れや手首から先の全体がガサガサ、ピキピキ切れてしまうのはいつものことです。
普通のテープや絆創膏を使うとかぶれてしまうため、肌に合うメーカーを見つけてそれをよく使っていました。
いつものように私の両手のほとんどが肌色のテープと絆創膏でおおわれていた時、子どももちょうどあちこちの手足のくびれにアトピーが出ていて皮膚が傷だらけになっていたことがありました。
プールでトビヒになってその後落ち着いた頃にアトピー性皮膚炎が悪化して、洋服から出ている皮膚のほとんどが「なんだかひどい」状態でした。
子どもは食物アレルギーがあり食べられるものが限られていたため、近隣の入れるお店は決まっていて、そのいくつかを「お母さんがピンチの時に行く場所」にしていました。
子どもは豚肉に塩をふっただけのステーキとグリーンサラダ(塩とレモンで味付け)、私はハンバーグという定番を食べにファミリーレストランに入ると、着席してすぐに店長さんが走ってきて小声で言いました。
「お二人とも感染症ではありませんか?」「他のお客様にうつる可能性があるようでしたらご入店をお断りしたいのですが」
「子どもはアトピー性皮膚炎です。私はただの手荒れです。」
腹が立つのをぐっと抑え、静かかに答えると「承知しました」と返事があったものの、私たちが注文したものは超特急で配膳され、込み合う時間帯なのに私たちの周りのテーブルには新たなお客さんは案内されませんでした。
電話相談でも「温泉に行ったら脱衣所で『それうつらないの?』と言われてとても嫌な思いをした」という話題を聞くことがあります。
大人が患者の場合でも状況は変わりません。
有史以来、感染症はみんなの敵だったのですから「うつる」ことへの警戒心は遺伝子に刻まれていることなのかもしれませんが、その警戒心の矛先が予期せぬタイミングで自分や子どもに向けられることは、本当に悲しく、また恐ろしくも感じるものでした。
食物アレルギーがあるので、そもそもレストランに行くことなどめったにありません。
たまに行くときというのは残業でいつもより帰宅が遅くなった、手荒れがひどく、疲れがひどい時という三拍子がそろったとき、または子どもを喜ばせたいときでした。
今年、新型コロナ感染症対策のために、レストランの店内でもテーブルとテーブルの間が広くあけられるか、一つ置きに着席禁止になっているところが増えました。
その光景を見るたびに、当時のいたたまれない思いと空席だらけの真ん中で食べている子どものにこにこ顔とステーキを思い出します。